2025年に映画化されたことで注目された作品。連載自体は2021年に完結し、単行本は全11巻(+外伝が4巻)が発売されています。
太平洋戦争中の実話である「ペリリュー島の戦い」をベースにしているため、ストーリーは重め。「死んだ方がマシ」と言ってしまいそうな状況のなか、戦争の最前線という過酷な状況での生命の儚さ、人間のしぶとさが描かれています。
※このレビューにはネタバレが含まれますので、閲覧にはお気をつけください。
「ペリリュー島の戦い」って?
物語の舞台となるのは1944年のペリリュー島。場所はこの辺りです。

現在のペリリュー島はパラオ共和国を構成する島のひとつですが、当時は日本の統治下にありました。
太平洋戦争には「節目」や「転換点」と呼ばれる戦いがいくつもあり、「ガダルカナル島の戦い」や「硫黄島の戦い」などが有名です。その一方で、ペリリュー島の戦いはいまいち知名度が低いといわざるを得ません。私も知りませんでした。
その理由はひとつではないと思いますが、あまり物語として語られていないというのも大きいんじゃないでしょうか。たとえば「硫黄島の戦い」はアメリカ軍が星条旗を掲げる写真が有名で、映像化作品も多く、渡辺謙と二宮和也が共演した映画「硫黄島からの手紙」も大ヒットしました。
そういう意味では、「ペリリュー 楽園のゲルニカ」こそ、「ペリリュー島の戦い」の認知度が上がるきっかけとなる作品として、長く支持されるのではないでしょうか。
かわいい絵柄で人物の描き分けがすごい
このマンガの第一印象は、「絵がかわいい」でした。登場人物はデフォルメの三頭身で、写実的であることがもてはやされがちな現代では、ちょっとした珍しさすら感じます。
そして、シンプルなキャラクターデザインながらも個人がしっかり描き分けられているのがスゴい。軍人が大勢出てくる作品って、二次元でも実写でも人物の見分けがちょっと難しくて、「この人は誰だっけ?」となりがちなんですよね。基本的に軍服で、みんな似たような服装をしているので。
その点、「ペリリュー 楽園のゲルニカ」はかわいいデフォルメ絵ながらも個人の特徴が見事に描かれていて、誰が誰なのかがスッと頭に入ってきます。
水も食糧もない現地に届く「御嘉賞」の意味
「ペリリュー 楽園のゲルニカ」には、殺害したアメリカ兵の遺体を晒し上げるなど、残酷なシーンがたびたび出てきます。絵柄はかわいいものの、内容はかなり容赦ないため、ショックを受ける人もいるかもしれません。
しかし私が一番グロいと感じたのは、戦況がどんどん厳しくなっていくなか、「天皇陛下の御嘉賞(お褒めの言葉)」を賜ったことで兵士が士気を上げるシーンです。
ペリリュー島の環境は過酷で水も食糧もなく、仲間は次々と倒れて増援作戦も失敗という絶望的な状況なのに、大本営から届くのはお褒めの言葉のみ。名誉ってタダだしお腹もふくれないのに、兵士たちは感激するんですよね。
そりゃ、名誉はないよりはあったほうがいいとは思います。しかし、補給などがない状況でお褒めの言葉のみという状況は、「働きに名誉で報いる」というより、「名誉の代わりに徹底抗戦して命を捨てよ」と犠牲を強いているだけです。
ペリリュー島へ贈られた御嘉賞は11回にものぼり、異例の多さとのこと。そのうえで「現地の守備隊は、誉れを胸に命を賭して粘り強く抗戦した」みたいな美談に仕立て上げられるわけです。
ただ、これって現代社会でもありがちな構図だと思うんですよね。プライドとか自尊心をくすぐられる話にホイホイ乗ってしまうと、後には何も残らないという。現代人は自衛する余地がありますが、戦場では強制的に価値観をたたき込まれるので、非常に恐ろしく感じます。
「玉砕=終わり」ではない
ペリリュー島では1944年9月にアメリカ軍の上陸が始まり、ゲリラ戦が繰り広げられたのち同年11月24日に日本軍が「玉砕」します。
戦争で「玉砕」というと「全滅して終了」というイメージがありますが、玉砕当日である11月24日が描かれたのは、全11巻のうち3巻から4巻にかけて。つまり物語としては、玉砕後に残った日本兵がどのように生き延び、何を見てきたかが長く描かれているんですよね。
組織が崩壊し、指揮系統を失っても、生き残ったわずかな日本兵は任務を遂行しようと潜伏を続けます。
彼らの敵はアメリカ兵、そして脱水と飢えと病気。まさに明日をも知れぬ日々を送るわけです。簡単に人の命が失われる戦場では、命があるだけで幸運なようにも感じられますが、生きているからこその苦しみからは逃れられません。
生き地獄を体感し、生還した方がいるからこそ、この作品が生まれたともいえますが……。
しかし、潜伏場所と食糧を確保できるようになると、今度は人間関係のイザコザなどの別の問題が出てくるのが何ともリアルでした。
人間が行きていくには水と食糧が欠かせないけれど、それが足りたからといって「これで十分」とはならないもの。主人公の田丸は漫画家志望で絵が描けることから、花札を作るなどして福利厚生の提供に貢献しています。最終的には花札が原因でトラブルが起こって、禁止されちゃうんだけど。
「記録」としてのマンガの価値
作者はこのマンガを描くにあたって綿密な取材をしたとのこと。そのためなのか、作品全体としては、作者の主張を全面に出すというより、ペリリュー島の戦いをひとつのマンガ作品として残すことが主な目的のように感じられました。さらに、メインの登場人物が漫画家志望だったり農家の息子だったりと、当時のリアルな事情かつ現代人が身近に感じられる工夫も盛り込まれています。
「戦争は怖い、ダメだというけれど、戦争の何が怖いのか?」。そう思う人こそ、一度手に取って見てください。
「ペリリュー 楽園のゲルニカ」はこんな人におすすめ
- 太平洋戦争に興味・関心がある
- 戦争や平和について考えたい
ペリリュー 楽園のゲルニカ
著者:武田一義
出版:白泉社

