藤井聡太 天才はいかに生まれたか―天才棋士を知る入門書【本】
- 2020.06.14
- 本
- Kindle Unlimited, レビュー, 読書感想文
藤井聡太七段の生い立ちにスポットを当てた1冊です。将棋を始めた子どもの頃から、最年少記録を更新したデビュー、怒濤の29連勝までの足跡を辿っています。
デビュー前のエピソードが豊富なので、29連勝した当時の空気を振り返りつつ、プロになる以前のことを知りたい人におすすめの一冊。ただし発行が2017年なので、最新の情報はありません。
身近な人からみた「天才」の意外なエピソードが満載
この本の大きな特徴は、藤井聡太七段にとって身近な存在の「声」がたくさん入っていること。藤井聡太七段のお母様、子どもの頃に通っていた「ふみもと子供将棋教室」の先生、そして師匠の杉本昌孝八段(本が出版された当時は七段)。文章の端々からまわりの人のやさしい眼差しが伝わってきて、「いろんな人に見守られてすくすく育ったんだなあ」とあたたかい気持ちになります。
なかでも、お母様によって明らかにされた小学校3~4年生の頃までサンタクロースを信じていたというエピソードは、ベストオブほっこりエピソードといっても過言ではないでしょう。
素人にもわかる尋常でない将棋の強さ、礼儀正しく謙虚な大人びた現在の姿からすると、かなりのギャップを感じます。でも、いかにも子どもらしい一面にふれて、なんだかホッとしました。
強さを追い求める眼差しが伝わる
「ふみもと子供将棋教室」で将棋を学んだ藤井聡太少年。その後、杉本昌孝師匠が幹事を務めていた「東海研修会」に進み、さらに「奨励会」とステップアップしていく様子は、かなり順調にみえました。
しかし、将棋の強い子が集まる研修会では、当初それほど強くなかったそうです。日々成長する子どもにとっての半年、1年という時間はとてつもなく大きいもの。少しでも年上の子が圧倒的に有利なのは想像がつきます。研修会では、年上の強い子たちと対局するうちに鍛えられ、ものすごいスピードで実力をつけていったと書かれていました。
藤井聡太七段が天才たるゆえん、それは負けたからといって諦めたり腐ったりせず、悔しさをバネにして「もっと強くなる」という純粋な気持ちを持ち続けたことなのかもしれません。
勝負の世界において、「調子が悪かった」だとか「運が悪かった」だとかいっているうちは、一流ではないということなのでしょう。
師匠と弟子って、いいな
この本を読むと、藤井聡太七段は本当にすばらしい「人」と出会ってきたというのがわかります。
とくに師匠である杉本昌孝八段との出会いは、奇跡であり必然でもあったと思うんですよね。
プロ棋士の多くは本部のある関東もしくは関西在住で、地方を拠点にする人は少数派。日本経済新聞の記事によると、2019年の時点で愛知県在住の棋士は杉本昌孝八段と藤井聡太七段のみ。藤井聡太七段がプロになる前は、杉本昌孝八段だけだったと思われます。
奨励会に入るにはプロへの弟子入りが必須。遠くに住んでいるプロに師匠をお願いすることも珍しくないようですが、近くでみてくれるプロとなると、「誰に弟子入りするか」の選択肢はほぼ一択だったのではないでしょうか。これは私の個人的な想像ですが。
杉本昌孝師匠は、将棋を細かく教えることはせず、対局するときは同志として本気で勝負する、そんな人だそう。将棋の勉強が大好きな藤井聡太七段にとって、これ以上ない師匠だといわれる理由がわかった気がします。
師弟関係に関する記述はそんなに多くないものの、この師匠と弟子の関係は類い稀なるものだということが伝わってきました。
天才はいかに生まれたのか?
これは、「持って生まれた才能をしっかり咲かせる土壌があった」ということに尽きるのではないでしょうか。
奇跡のような天才と同じ時代に生きて、ヒストリーが紡がれる瞬間を見られるのは楽しいものですね。
藤井聡太 天才はいかに生まれたか
著者:松本博文
出版:NHK出版
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