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【マンガ感想】強制除霊師・斎シリーズ―キャラの立った霊能者、漫画になる

古今東西、老若男女を広く惹きつけてやまないもののひとつに怪談やホラーがあります。目には見えない怨霊、知らず知らずのうちに受けている祟りなど、理屈では説明できない摩訶不思議な現象は恐ろしくもあり、興味をそそられるものでもあります。

この作品は、人ならざるものが引き起こすトラブルを斎(いつき)さんという実在の霊能者が解決していく漫画です。「目に見えない存在は怖いもの」というだけで終わらせず、依頼者に非があればそれをスパッとぶった斬ってくれる爽快さがあって、そこが人気の秘訣なのだと思われます。

※このレビューにはネタバレが含まれます。閲覧にはお気をつけください。

なぜか霊能者のキャラが立っている

斎さんは当初、紳士服店の店員さんでした。似合わないものはハッキリ似合わないと言うドSな正直な接客が評判だったものの、経営悪化で退職を余儀なくされます。そこで生計を立てるために仕方なく、霊能力を生かして困っている人たちの相談に乗ることになります。

最初は自分のことを「堅実な仕事についてまっとうに生きる普通の社会人」といい、霊能力を使った仕事をしたがらない斎さん。それなのに、実は同業者から「あの人は自分とは格が違いすぎる…」と恐れられる強大な能力の持ち主なのです。

この展開、王道すぎないか?

いつもスーツ姿の斎さんは、霊にも人にも容赦しません。未練がましい霊は問答無用で「上」にあがらせ、厄災を招くような行いをした人にも耳が痛いことをぴしゃりと言います。

でも本当は、猫が大好きで自宅では猫を何匹も世話をしている、心やさしい人なんですよね。わけありの霊の話にはちゃんと耳を傾け、諭したり成仏させてあげたりします。

トラブルに関わりたくないと言いつつ、周囲から頼られて何だかんだ助けてしまうあたりもツンデレで素敵です。漫画を描いている作者の小林薫さんご本人も誌面に登場し、家系にまつわる因縁を解決してもらっていました。2冊目のタイトル「因縁の家系」は作者ご自身のことなのです。

まるで二次元から来たキャラクターの斎さん。漫画になるために生まれてきたようなお方ではないでしょうか。

「斎」シリーズは16冊刊行済み

「強制除霊師・斎」シリーズはなぜか巻数の表示がなく、順番がちょっとわかりにくいのでまとめてみました。

  1. 怨念旅館
  2. 因縁の家系
  3. 守護悪霊
  4. 悪行の代償
  5. 呪念の地
  6. 哀しみの悪鬼
  7. 疫神
  8. 自殺女房
  9. 贖罪
  10. 霊圧の匣
  11. 水子霊の呪縛
  12. 女系家族
  13. 屍人の聲
  14. 消された陵
  15. 隠された十字架
  16. 二十四の因果

一話完結なのでどの巻から読んでも問題ありませんが、「怨念旅館」には斎さんが職を失う経緯やハローワークに通う姿など、貴重な(?)エピソードが描かれているので、初めて読む人はこの巻から読むのがおすすめです。

Kindle Unlimitedで読み放題に入っていることが多いので、まとめ読みしたいときはチェックしてみてください。

斎さんが教えてくれるのは、日常生活で大切なこと

斎さんは、漫画のなかでなるべく霊的なトラブルを避けて通りたい人のための心がけも教えてくれます。

毎日窓を開けて空気を入れ換えること。
神棚はきちんとお世話すること。
心をすこやかにして過ごすこと。

え、こんなに簡単なこと?と思ってしまいますが、人間って簡単なことができないから苦労するんですよね。私はこのシリーズを読んで、毎日窓を開けることを心がけるようになりました。

斎さんは歴史上の人物とも会っちゃう

「斎シリーズ」には、作者と斎さんがパワースポットや心霊スポットをめぐるお出かけレポート漫画も収録されています。また、斎さん自身が体験した恐ろしいできごとのエピソード漫画も読み応えがあります。さらには歴史上の有名人物の霊と交流することもあって、それがまたおもしろいのです。

なかでも、「疫神」に収録されている成仏できない武蔵坊弁慶と会話しちゃう斎さんの話は衝撃でした! まさか、義経に裏切られていたなんて…。これが事実だったら弁慶が気の毒すぎる…。

お出かけレポートには青山霊園や金沢などが出てきます。金沢、霊的にもいい街なんですね。行ってみたくなりました。

斎さん、どうか安らかに

心霊ものやオカルトものはあやしさが先に立ってなかなか楽しめない作品もありますが、斎さんはまともな感覚の持ち主で、読んでいるうちに「これホントなの? 霊なんているの?」といった感覚は薄れ、「きちんと生きることって大切だな」という気持ちになってきます。

なお、斎さんは2018年10月7日、この世を去っていかれました。漫画の登場人物としてしか存じ上げない私ですが、訃報に触れたときは無性にさみしくなったものです。

斎さんの闘病の様子は、「霊能者ですがガンになりました」に詳しく描かれています。こちらの本のレビューもそのうちするつもりです。

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強制除霊師・斎
著者/小林薫
監修/斎
出版/ぶんか社(ぶんか社コミックス)

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