【Kindle Unlimited】「江戸前の旬」―銀座には善人しかいない【漫画】

【Kindle Unlimited】「江戸前の旬」―銀座には善人しかいない【漫画】


銀座柳寿司三代目 江戸前の旬
著者:九十九森/さとう輝
出版:日本文芸社

「週刊漫画ゴラク」で連載されている寿司漫画です。連載開始は1999年、2019年8月には99巻が発売されるというロングランヒット作品であり、そのうち80巻までがKindle Unlimitedで読めます(2019年7月末日現在)。Kindle Unlimitedといえども、これだけの巻数が読める漫画はなかなかありません。私の知り合いは入院中の暇つぶしに読んでました。

寿司を握って問題解決

主人公は、銀座「柳寿司」の三代目、柳葉旬。末っ子でありながら祖父から続く店を継ぎ、いろんなトラブルを寿司を握ることで解決していきます。上司とのイザコザから親子のすれちがいまで、とにかくすべては旬が寿司を握ることで丸く収まります。

たとえば第1巻の「かんぴょう巻き」では、銀座でテーラーを営むも商売に行き詰まり、店をたたもうとする藤岡夫妻が登場します。思い詰めた夫は妻を置いて自ら命を絶とうと勝鬨橋の上に立ちますが、通りかかった旬に声をかけられ、すんでのところで思いとどまります。その晩、藤岡夫妻は「柳寿司」へ。そこで妻はかんぴょう巻きが食べたいと言います。

てっきり妻が自分に遠慮して安いネタを注文したのだと思う夫。しかし、それは違っていました。妻は、夫婦で銀座にやってきたばかりの若かりしころ、二人でかんぴょう巻きを食べたことを思い出していたのです。

昔はのり巻きといえばかんぴょう巻きだった、と語る旬の父。夫は、時代の流れとともに見向きもされなくなったかんぴょう巻きを、自らの境遇と重ね合わせます。 そこで旬が藤岡夫妻に出してきたのは、形の崩れたかんぴょう巻きでした。父は「なんだこれは」と旬を叱ろうとしますが、旬は「銀座で育った俺たちは藤岡さんの洋服を着てお祝いした。二人が見向きもされない存在だなんて認めない」と大粒の涙をこぼします。

藤岡夫妻は、涙でうまく握れなかった旬のかんぴょう巻きを口にします。そして「何もなかったあの頃に戻っただけだ」と新たに出直すことを誓うのでした。

善人の善人によるストーリー

旬の周囲や柳寿司のお客に手のほどこしようのない悪人はいません。寿司に込められた旬の思いを感じ取り、涙したり反省したりします。これは、 ちょっと大げさですが人が神の前で悔い改める瞬間にも似ています。

お決まりの展開は多少マンネリなものの水戸黄門に匹敵する安心感があり、後味の悪い話もないので、コンディションにかかわらず気楽に楽しめます。

寿司漫画らしく寿司ネタ・魚ネタも豊富で、うんちくを仕入れたい人魚釣りが好きな人も楽しめるんじゃないでしょうか。

いつしか成長する旬坊を見守る親戚の気分に

連載開始時はクリッとした目がかわいかった「旬坊」は、物語が進むにつれて公私ともに成長していきます。ライバルとのせめぎ合い、失恋、偉大なる師匠である父の引退。さらには結婚し、子どもをもうけ、弟子もとります。

なので、80巻にもなるとつい「大きくなったなあ」としみじみ言いたくなっちゃうんですよね。「江戸前の旬」は寿司漫画であると同時に旬の成長物語でもあります。