【Kindle Unlimited】応天の門-平安京の凹凸探偵【漫画】

【Kindle Unlimited】応天の門-平安京の凹凸探偵【漫画】

平安時代を舞台にしたこの作品、主人公は後世で「天神さま」として知られる菅原道真と、数々の短歌を残した歌人である在原業平です。2019年8月現在、3巻までKindle Unlimitedにて読み放題になっています。また、バンチコミックスの公式サイトでも何話かフリーで読めますのでこちらもどうぞ。

ティーンエイジの道真と稀代の色男業平がコンビを組む

菅原道真といえば生まれついての秀才で、貴族の執念うごめく朝廷で出世したばかりに無実の罪で太宰府に流され、死後には「怨霊」やら「学問の神様」やらにされ現代までその名を残しているお方です。

しかし『応天の門』の道真は若い。なんと二十歳前後。 ビジュアルはもっと若く見え、ぶっちゃけかわいい。 まだ出世も結婚もしておらず、日々勉学に励んでいらっしゃいます。つまり世間知らずのおぼっちゃんです。

そんな若かりし道真を「平安京の探偵」にするなんて、それだけで「おもしろそうじゃないか」と期待してしまいます。

そして、名探偵には有能な助手が必要です。まだまだ青二才の道真を助けるのは、歌人として、そして平安の色男として名高い在原業平。映画化もされた漫画『ちはやふる』の元ネタである和歌「千早ぶる 神代もきかず 龍田川 からくれなゐに 水くくるとは」の作者ですね。

2人の年の差はおよそ20歳。道真が豊かな知識に裏打ちされた推理をし、人の世の酸いも甘いもたっぷり味わった業平がフォローする。「陰と陽」「水と油」くらい相容れなさそうな2人だけれど、それゆえにお互いをおぎないあえば問題を解決へと導く大きな力を発揮します。

道真は、没後に自身が「怨霊」や「神様」に仕立て上げられたように、人の心が魔物を生み、事件を生むのを目の当たりにします。そして自分は何も知らないのだと思い知ります。

しかし道真はそこでくすぶりません。若さと聡明さを武器に少しずつ成長していきます。3巻には、書物で得た知識をもとに井戸を掘り当てるエピソードが出てきます。そこで道真は「実践してこその学問だ」と痛感したのではないでしょうか。

「応天門」の先は妖怪より恐ろしい貴族の巣窟

2人が生きた平安時代前期、貴族たちは権力争いに忙しくしています。なかでも最大の勢力はご存じ藤原氏。藤原氏一族でもっとも有名だと思われる藤原道長が生まれるのは『応天の門』の時代から約100年後のことで、作中では道長のご先祖様が栄華をきわめんと張り切っている真っ最中です。

道真と業平は「バケモノが出た」「亡霊が出た」など、現実性と空想性が入り交じった平安の世で起こる事件の解決に奔走します。しかし、その影には、貴族の傲慢さや陰謀が見え隠れ。日本独自の文化が花開き、雅なイメージの強い平安時代も、けっこうドロドロしてるんですよね。

魑魅魍魎が出没するファンタージではなく、人間の業を表現し、現実性の高い歴史物語として描かれている点も、この作品の魅力のうち。監修の本郷和人先生による解説コラムも読み応えがあります。

平安京という箱庭で

さらに、作者の灰原薬先生は、読み進めていくうちに読者が「平安京って狭い世界なのね」と感じるような描写を織り交ぜています。あえていうならば、貴族たちをものすごく狭い世界でてっぺんを取り合っている「井の中の蛙」として描いている気がしてなりません。

後世に残っているのが枕草子や源氏物語といった宮中の物語で、その影響もあって平安時代の人はみんな和歌を詠んだり花鳥風月を愛でたりして過ごしていたと思いがちですが、そんなのはごく一部のはず。市井に生きた声なき人々のほうが絶対に多いのです。

南北がおよそ5.3km、東西はおよそ4.5kmという、現在の京都市よりも狭い平安京。そこが世界のすべてだと思い込む愚かさは、現代にも通用するものではないでしょうか。

今後は866年の「応天門の変」がどう描かれるかに注目

タイトルにもなっている「応天門」とは、天皇の住まいや官庁が置かれた大内裏に実際にあった門のこと。歴史のうえでは866年の「応天門の変」で焼け落ちています。

この「応天門の変」は何者かによって応天門が放火されたという事件です。しかし、最初に犯人だといわれた人が無罪になったり、逆に犯人だと証言した人が流罪になったりと、きな臭い決着を迎えました。

犯人と思しき人物らを流罪にして事件は解決とされたものの、結果的に複数の貴族が失脚。ただし、事件の解決にあたった藤原良房は出世し、人臣初の摂政になります。つまり、藤原氏が事件を踏み台にし、天皇の家臣で初めて政治を操る立場になったのですね。そのため、「応天門の変」は藤原氏が権力を確かなものにするための策略だったのでは、という見方が強いのです。

さて、絶賛連載中の本作品、おそらくこの「応天門の変」の謎解きがクライマックスになるのでは?と予想しています。

歴史の勝者である藤原氏は、この漫画では悪役の立場。3巻では、道真の兄が藤原氏一族に犬畜生のように扱われ、命を落とした事件の詳細が描かれています。少しずつ世間を知り、成長していく道真は、やがて訪れるその「事件」を、どんな眼差しで見つめるのでしょうか。

現代人は道真の辿った悲しい運命を知っています。若き道真に思い入れを持てば持つほどに、続きを読みたくないが読みたいという気持ちが湧き出てくる、そんな漫画です。

読みどころポイント

  • 歴史上の人物がタッグを組んで事件解決に奔走するというおもしろさ
  • 平安貴族のドロドロした人間関係と権力争い
  • 菅原道真がカワイイ

応天の門
著者/灰原薬
出版/新潮社(バンチコミックス)