【漫画】シャトゥーン~ヒグマの森~-人類がヒグマに勝てるわけがない

【漫画】シャトゥーン~ヒグマの森~-人類がヒグマに勝てるわけがない

こちらの漫画、2019/9/2までebook Japanまんが王国で第1巻が無料で読めます。ヒグマのニュースが気になる方はぜひ。

シャトゥーンとは冬眠に失敗し雪山を徘徊するクマのことで、日本語では「穴持たず」と呼ばれています。冬眠中のクマは食事をしませんが、シャトゥーンはエサを求めて徘徊します。しかし、冬の自然界に巨大なクマを満足させるだけのエサはありません。そのためクマはつねに飢え、人間にとって危険な存在となります。

この漫画は冬の北海道が舞台で、巨大な子連れのヒグマが登場します。ヒグマは、日本では北海道にしかいません。本州や四国にいるのは、ヒグマより小型のツキノワグマです。

このレビューにはネタバレが含まれますので、閲覧にはお気をつけください。

「獲物」としての人間の描写が恐怖

真冬の北海道。物語の冒頭で、通信手段も移動手段もない山小屋に閉じ込められた主人公の一行は、次々と「シャトゥーン」と思われる巨大なヒグマに襲われます。しかもそのヒグマは、主人公・薫が学生時代に「ギンコ」と名をつけかわいがっていた子グマが成長した個体でした。

1巻の第3話では、さっそく生きながら食べられる人間の心理が細かく描写されています。私は、自分の腕がムシャムシャと食べられているのを見ながら「オレのウデを喰うな~っ!!」なんて叫ぶ漫画を初めて読みました。

ギンコは「獲物」の腕をちぎり、全身を痛めつけて動けなくし、皮を剥いでゆうゆうと人間を味わいます。これだけで読むのをやめてしまう人もいるかと思うほど恐ろしく、戦慄を感じる描写です。人間の味を覚えたギンコは、そこから妊娠中の女性、主人公の恋人、きょうだいを次々と襲っていきます。

この漫画がよくあるハートフルストーリーであれば、「ギンコが過去を思い出して人間を襲うのをやめる」といった展開が用意されているでしょう。読んでいる側としてもついついそれを期待してしまうくらい、ギンコが人間を襲うシーンはグロテスクで絶望的です。

しかしギンコは最後までただひたすら凶暴な獣であり続けました。最終的な生存者は、主人公・薫とその娘の美々だけ。過去の思い出と決別し、命を賭けてギンコを仕留めようとする薫。薫とギンコはお互い子を持つ母親であり、どちらも子のために文字通り命を賭けます。

最終的にはなぜギンコが冬眠できずに冬山をうろついていたのかがわかり、話は人間が原因となる環境破壊へとつながっていきます。

ただ、環境破壊問題の扱いはやや薄く、とにかくヒグマという生きものが持つ圧倒的な力と、絶望を感じながらも立ち向かう人間がメインテーマです。

なぜヒグマが危険なのか

『シャトゥーン~ヒグマの森~』は全3巻と比較的短い部類の漫画です。しかし、通して読むとヒグマの恐ろしさがよくわかります。

人の想像が及ばない強大な力を持っている

ギンコの爪の先が触れただけで衣服と肉が裂け、血が噴き出すシーンがあります。アゴはひと噛みで四肢を食いちぎるほど強く、さらに走るスピードは時速80km/hとオリンピックの短距離走選手以上。木登りも得意で一度追いかけられたら逃げ場はありません。

↑犬がオモチャを振り回すような感じで振り回される女性。

ギンコはそのパワーで窓や壁を簡単にぶち破り、自動車も破壊しつくします。車の中にいようが家の中にいようがけっして安全ではありません。

刃物や小さな銃ではケガを負わせることしかできず、余計に危険

鳥を撃つような銃やナイフでは、ぶ厚い毛皮を持つヒグマを仕留めることはできず、ケガをさせたことで怒りを買うだけ。中途半端な反撃によって「手負い」にされたギンコは怒り狂います。

人間とは 行動原理が根本的に異なる

いちばん恐ろしいのはここです。一度人間を襲ったヒグマは人間を獲物として認識し、際限なく人を襲い続けます。人間が仲間の遺体を弔うために回収したとしても、それはヒグマにとって獲物の横取りというあるまじき行為。ヒグマは獲物に執着を持ち、自分のモノと認識した獲物を執拗に追い続けます。

ヒグマと人間の付き合い方を教えてくれる

物語の中で、かつて北の大地に住んだアイヌはヒグマを毛皮をまとった「神」(カムイ)としてあがめていたことが語られます。ヒグマはアイヌに毛皮や肉など多くの恵みをもたらす、偉大な存在でした。アイヌはクマを仕留めてその恵みを享受したのち、クマの霊を送る儀式を行います。(余談ですが、愛知県にある野外民族博物館リトルワールドには、当時のアイヌの暮らしを再現した展示があります。)

つまりヒグマは、一個の生命体としてとうてい人間が適う存在ではなく、神として恐れられるほど強大なものということですね。「山へ追い返せばいい」「動物園で飼育すればいい」とコントロールできることを前提に上から目線で言うこと自体が大きな過ちではないかとしみじみと思います。

一歩間違って命のやりとりをすることになれば、多くの犠牲が出る可能性もあるわけですから…。

読みどころポイント

  • 人間が「食べもの」として扱われる遠慮のない描写が衝撃的
  • ヒグマの恐ろしさがいやというほどわかる
  • 普段は触れあわないヒグマという生きものの強大さに圧倒される

シャトゥーン~ヒグマの森~
漫画:奥谷通教
原作:増田俊也
出版:集英社(ヤングジャンプコミックス)