【漫画】「サトコとナダ」―彼女は私のやさしい友だち

【漫画】「サトコとナダ」―彼女は私のやさしい友だち

サトコとナダ
著者:ユペチカ
監修:西森マリー
出版:星海社

日本人の「サトコ」は、留学先のアメリカでサウジアラビア出身の女の子「ナダ」とルームシェアをすることに。サトコは生まれて初めてムスリマ(イスラム教の信者の女性)と知り合い、最初は「仲良くしていけるのかな…」と不安を感じますが、ナダはとっても魅力的な女の子。ふたりは友だちになります。

黒ずくめの服の下はどうなってるの?

ムスリマといえば、顔や体のラインを極力出さない、黒ずくめの姿がまず浮かんできます。この服装に私は「個人の好き嫌いにかかわらず守らなくてはならないルール」とか「宗教上の理由で着ているもの」というイメージを持っていました。

でも、ナダは 「着てると無敵の気分」 だといい、自分からそういう服装をしているというのです。

ナダにとっては、自分が自分であるために着る服。もしかして、仕事のときにスーツでキメたり、コンサートにオシャレしていったりするのと変わらない…?

しかも、あの黒ずくめの服(サウジアラビアでスタンダードなスタイルは「ニカブ」というらしい)の下はめちゃくちゃオシャレだったり、パジャマだったりとかなりフリーダム。なるほど、これはこれで便利!

ナダは自分が好きで、自分の国が好き

これまで、ムスリマが戒律に従っている姿から「自分の意思でやっていない」=「意思を持ってもムダ」というイメージを持っていました。でも、これは間違ってたんですね。ごめんなさい。ナダは気が強くてものをはっきり言うし、「医者になる」という目標を持って勉強しているし、最初のほうはサトコのほうがよっぽど自主性がないのです。

ナダにとってはニカブを着ることも1日5回のお祈りをすることも「自分のため」。だから、自分の国を「ひどい国だね」と言われたときは悲しそうです。生まれた国や伝統を愛する気持ちは、万国共通ですから。

すべてのムスリマがナダのようだとは思いませんが(そもそも娘のアメリカ留学を許している時点で、ナダの家はかなり先進的な気がする)従来のイメージをくつがえすには十分すぎる、パワフルなキャラクターです。

あなたのことが知りたい!

サトコがナダと仲良くなるにつれてイスラムの文化を知ると同時に、ナダもまたサトコを通じて知る日本の文化に触れていきます。「まぶたを二重にするためのノリ」の存在を知ったときは「目に線を増やすとおしゃれな国があるのね」といって驚いていました。そりゃ、パッチリ二重の中東ガールには必要ないものでしょう…。うらやましい。

二人は、お互いの国や文化について積極的に学ぶわけではありません。目の前の友人が好きで、友だちのことを知りたいだけ。

サトコはナダのために、ナダの文化を尊重してハラール食材(イスラムの教えで食べることが許されている食品)でご飯をつくります。イスラム教ではアルコールを摂取することが禁じられているため、部屋でお酒を飲むときはナダにひと言断ります。

仲良くなるには、すべてを相手に合わせる必要はないんですよね。「あなたはこうだけど、私はこう」でいい。

イスラム教では、多神教の信者は地獄へ落ちるそうですが、ナダはサトコに「このままでは地獄に落ちるわよ」とも「改宗したら」とも言いません。それはイスラムの教えであって、サトコに押しつけるものじゃない。サトコの国・日本では、死んだ人は生まれかわりますからね。

サトコも、「地獄に落ちるなんてひどい」なんて言いません。「イスラム教ではそうなんだ」くらいのものです。

信じるものが違っても、それが理解できなくても、お互いを尊重することはできる。「みんな同じこと」が重要視される日本では、欠けている部分のような気がします。

こんな青春を体験したかった

いろいろと書きましたが、この漫画がおもしろいのは、サトコとナダがむちゃくちゃ青春してるからなんですよ。「あ~私も仲間に入りたい~!女子会にまぜてほしい~!パジャマでチョコレート食べたい~!」って思います。最後、サトコの帰国で二人の物語が終わってしまったときは、とにかくさみしかったです。

遠い国が少し近くなる漫画

全4巻、4コマがメインの構成でエッセイのような雰囲気がありますが、あくまでフィクションとのことで、サトコもナダも実在の人物ではありません。だからといって現実離れしているかというとそうでもなく、作者のインタビューを拝見するとイスラム文化の表現には相当気を遣っていることがうかがえます。それにイスラム文化バンザイ!というわけでもなく、女性の生活に制約が多いことなども描かれています。一人で外食できないのはつらい…。

サウジアラビアは、日本人の私からすると文化的にも距離的にも「遠い国」です。だからこそ、この漫画に興味を持ったんですけどね。そんな遠い国のことを、少しだけ知ることができた漫画でした。

参考:日本人女性とムスリム女性の交流描くマンガ『サトコとナダ』 作者の思い「物語の中では優しい世界であってほしい」 | ハフポスト